Muro Box-N20のデザインの経緯

Muro Boxのデザインは、最初の電子ピアノのイメージから現在の代表的な木箱に至るまで、何度も進化してきました。それはオルゴールの独特な響きや共振の効果を完璧に表現するために行われてきたのです。本記事では、デザインの過程について皆さんと共有したいと思います。様々な意思決定の前にどのような検討やエピソードがあったか、その中でどのように本当に製品に興味を持っている顧客を見つけ、アンケート調査に協力していただき、デザインスタイルを決定したのかということも、興味深い物語です。

「なぜ無限に曲が流れるスマートオルゴールを開発しようと思ったのか?」と聞きたがる方もいるでしょう。オルゴールをテーマとして起業に踏み出すきっかけからお話ししましょう。興味のある方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。

スマートオルゴール「Muro Box-N20」の歴代プロトタイプ一覧。
世界初の編曲可能なスマートオルゴールMuro Boxと伝統オルゴールのムーブメント。
左図:昔のオルゴールのムーブメント。右図:スマートオルゴール「Muro Box」のムーブメント。

デザインスタイルを決める前に、まずはムーブメントの構造を決定しないと

もし昔のオルゴールのムーブメントをよく観察してみると、シリンダーという部分には多くのピンが埋め込まれていることが分かるでしょう。これらのピンが櫛歯を弾いたら、オルゴールの独特な透き通った音色が流れます。美しい音楽が流れるキーポイントは、ピンと櫛歯がうまく組み合わせることです。

伝統的な機械式オルゴールはピンが決まっているため、一台のオルゴールは一曲しか流せません。オルゴールがどのような曲でも何曲でも演奏できるようにしたいので、シリンダーの設計を改造しなければなりません。そうすると、シリンダーに埋め込まれているピンがプログラムで櫛歯を弾くタイミングを制御することができ、お好みの曲が無限に演奏できるようになりました。

プログラムで制御できる特許ムーブメント

Muro Boxの無限に曲を切り替え機能の開発における最大の挑戦は、オルゴールのシリンダー設計です。私たちが開発した特許ムーブメントは、従来の一体成形のシリンダー構造を層状の組み立ての構造に改造しました。これにより、各層のステンレス板に植えられたピンが個別に制御できるようになりました。ステンレス板にはコイルが内蔵され、電流が通ることで電磁石として機能します。電力で磁力を制御し、ステンレス板を吸着したり、脱着したりすることで、櫛歯を弾くタイミングを制御することができます。そのため、各音が独立して演奏でき、音域内では無限に演奏することができます。

智慧音樂盒Muro Box的專利機芯
動画再生

こちらのビデオで一緒にMuro Boxのデザインの秘密を覗きましょう。ビデオでは、20セットの車のクラッチの電磁石仕組みが精巧に縮小され、オルゴールのシリンダー設計に組み込まれていることが映されています。

Muro Boxが皆さんの記憶に残るオルゴールのシリンダーのイメージを保つために、私たちは周りのあらゆる工業デザイナー、メカニカルエンジニア、デザインスタジオなどを訪ねました。その上、台湾の工業技術研究院の指導を通し、大手企業の設計部門とも連携することができました。さんざん頭をひねって奇想天外な解決策をたくさん提案しましたが、シリンダーイメージのデザインを保ちながら体積の微小化が実現できる提案はなかったのです。結局、二年間をかけて、ようやくMuro Boxの特許ムーブメントの開発に成功しました。ムーブメントを開発してきた過程に興味のある方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。

ムーブメントが製品のサイズを決める

「普通のオルゴールムーブメントより結構大きいね!」と、多くの方が初めてN20のプロトタイプを見た時にはよく言います。その後、「なぜもう少し小さく作らないのか?」と聞かれることもあります。

実は、スマートオルゴールを研究開発したばかりの2016年に、オルゴールムーブメントの製造において40年の経験を持つ協櫻精密工業を訪れました。そこで、「もっと大きく作ったらどうですか?」というアドバイスをいただきました。なぜなら、物が大きければ大きいほど高くなるという一般的な考え方があるからです。一方で、当初私たちはもっと小さく作りたかったのですが、開発初期に多くの技術的な問題が解決できなかったため、そして原理を十分に理解した後、再設計するコストがかなり掛かると分かったため、設計し直すわけにはいきませんでした。将来、再設計する機会があれば、もっと皆さんの心にあるオルゴールのサイズに近い製品が作れたらいいと思います。

過去の華々しい時代には、台湾の協櫻会社から供給されていたオルゴールムーブメントが世界中に約四割ありました。オルゴール産業の歴史に興味のある方は、ぜひこちらの深掘り記事をご覧ください。

伝統的で一般的な18弁の櫛歯とMuro Boxが採用している20弁の櫛歯です。

櫛歯が音域の範囲を決める

協櫻会社は20弁の櫛歯の採用を推奨しました。その理由の一つは、シリンダー構造には空間上の制限があるからです。20弁の櫛歯は幅6センチしかないため、全体的な設計において余裕のあるスペースが確保できます。もう一つの理由は、20弁の櫛歯は美しい音色を持ち、無数のオルゴール製品にも採用されており、成熟した製品でもっとも安定した選択肢だからです。

初代のMuro Box-N20の櫛歯は20弁で、音域はC3からA5までの全音で、半音は含まれていません。しかし、半音は音楽表現において非常に重要な要素だと分かっているため、より高い音階の櫛歯を採用したいと最初から協櫻会社に依頼しました。(その後のバージョンMuro Box-N40には半音が含まれています。)

しかし、製品開発の初期段階では多くの不確実性があるため、まず価格がより手頃な20弁から初め、十分な市場需要があることが確認できたら、40弁のハイエンド製品の開発に取り組むことを、協櫻会社がお勧めしてくれました。したがって、20弁で半音なしの櫛歯を採用することにしました。

「なぜ自社で櫛歯を開発してみないのか?」という質問も多く寄せられました。そうすると、製品のサイズを自由に決められるのではないでしょう?
しかし、櫛歯の製造プロセスも非常に複雑だし、精密な位置決めや切削といったステップも多いし、それに手作業で調律を行わなければなりません。私たちの初期の小さな企業がオフィスで簡単に生産できる部品ではないのです。伝統オルゴールのムーブメントの製造プロセスに興味のある方は、私たちが直接生産ラインに赴き録画したこちらのドキュメンタリーをぜひご覧ください。

協櫻製の櫛歯を採用したおかげで、確かに開発時間とコストを大幅に節約できましたが、長時間の演奏による磨耗に耐えられるように、櫛歯の耐久性を向上させるための研究にも半年以上を費やしました。

協櫻製の櫛歯は、16日間24時間連続で演奏し、合計384時間のストレステストに耐えられるように設計されていました。普通のオルゴールは一曲の核心部分しか演奏できず、しかも多くの顧客は毎日20分以上聴くことはないため、この許容基準は昔のオルゴールにとって十分です。
しかし、私たちのスマートオルゴールの目玉機能は自由に作曲編曲・自由に曲を切り替えることができることです。そのため、音楽プレーヤーのような耐久性を持つために、Muro Boxの櫛歯を改良すべきだと考えました。櫛歯を改良する過程に興味のある方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。

Muro Boxのデザインがいよいよスタート

製品開発の初期段階から、私たちのチームには工業デザイナーがおらず、顧客の好みを調査しデザインスタイルの方向性を決める方法が分かりませんでした。手元にはエンジニアが手作りした試作品しかなかったので、皆さんに説明したりアンケート調査を行ったりしようがなかったのです。最終の模様でさえ分からない製品が、一体どのように機能を紹介すれば、潜在顧客の注目を集めることができるのでしょう。

想以可愛機器人角色來代表智慧音樂盒Muro Box
友人であるイラストレーターのOscarさんに、Muro Boxを代表するキャラクターを作成してもらうよう依頼しました。物語を語るような方法で、それがどのように人類の生活を変えるのかを、皆さんに紹介したいと思います。

Facebookのマーケティング戦略を研究してみたら、おもしろいか実用的なコンテンツで読者を惹きつけることを多くの方が推奨していることが分かりました。それにより、読者に製品を売り込むチャンスが得られるのです。オルゴールはまだ誕生しておらず、人々に音楽を奏でることができないからには、せめてまずは想像図を描いてみましょう。それが我々の生活に欠かせないパートナーだとしたら、どのようなおもしろい物語が生まれるのかを想像してみたらどうでしょう?

このアイデアを思い付いた後、すぐに同じくChangeeというコワーキングスペースの利用者であるイラストレーターOscarさんに尋ねました。彼もこのアイデアを実現してみたいと考えました。そこで、OscarさんにMuro Boxを代表するかわいいロボットキャラクターのデザインを依頼しました。実は「Muro Box」とは「Music Robot in a box」の略であり、つまり箱の中に隠れて音楽を奏でるロボットがいるということです。

また、新たな問題に直面しました。イラストを通して顧客の好みなどを調査する方法は時間コストが高すぎ、私たちのような小さな会社には向いていないことが分かりました。主力商品に対して一連の広告イラストが計画できる人材豊富な大手企業のほうが、向いているかもしれません。そのため、この道はダメでした。潜在顧客の意見を集めるために、ほかの解決策を見出すしかありませんでした。

すでに定年退職した協櫻会社の黄次長が当時協力してくれたことに対し、心より感謝しています。オルゴールをいくつか自作することを通じ、市場の動向や顧客の意見などを調査することをお勧めしてくれました。そのため、FacebookファンページでDIYレッスンコースの宣伝を始め、私たちのようなオルゴール愛好者を対象として市場調査を行うことができたらいいと思います。当時、開講したことのあるコースは以下の通りです。飛行機オルゴール(親子向けコース)、フラミンゴオルゴール絵本(親子向けコース)、フラワークリスタルボールオルゴール(大人向けコース)、ペインティングピアノと動物のオルゴール(大人向けコース)、カスタマイズされたレーザー彫刻のオルゴール(大人向けコース)などです。

智慧音樂盒Muro Box創辦人(右)
協櫻会社の黄次長が『天空の城ラピュタ』のオルゴールムーブメントを一箱分もくれました。それは、2017年4月に初めて開催した飛行機の形をしたオルゴールの親子DIYレッスンコースで使わせていただきました。
過去開過的DIY音樂盒與編曲課的照片記錄
こちらは2017年のFacebookファンページのカバー写真です。開講したことのあるオルゴールDIYレッスンコースと編曲コースの写真が載っています。

オルゴールのDIYレッスンコースは、少人数制で参加者との交流をもっと深めたいと思い、各コースの参加者を10名に限定させていただきました。コース開講の準備にはかなり時間と力を費やしましたが、本当にオルゴールに愛情を持つ仲間に会えたことを嬉しく思います。私たちはコース終了後か休憩時間を利用し、スマートオルゴールの機能について簡単に参加者に説明し、それに、アンケート調査と会話を通して製品に対する期待やアドバイス・意見などを集めていました。その中に、コース終了後も私たちと連絡を取り合ってくれた親切なオルゴール愛好者も何人かいました。貴重な時間を割いてお客様インタビューに協力し、スマートオルゴールのデザインスタイルについて話し合ってくれて心より感謝しております。

オルゴールのDIYレッスンコースで学んだこと

集めたアンケートによると、DIYレッスンコースの参加者が気になるのはオルゴールの奏でる音楽ではなく、その見た目だということが判明しました。その人たちが購入したオルゴールは比較的手頃な価格で、音域の広い高価なオルゴールを手にしたことがある人は少なかったようです。そのため、外からムーブメントの動きがはっきりと見えるようなオルゴールのデザインに対し、馴染みがないと思われるかもしれません。

花藝水晶球音樂盒DIY課程
当時、もっとも人気のあるDIYレッスンコースは、フラワークリスタルボールオルゴールのコースでした。
智慧音樂盒Muro Box早期成員
写真にあるのは、オルゴールのDIYレッスンコースでデモしたことのあるエンジニアリングサンプルです。

コース参加者のアンケートから、見た目のデザインに役立つ見解を得ましたが、製品の希望価格について、開発コストをはるかに下回っているという声が多くありました。その上、オルゴールの先進的な機能で生活がおもしろくなれることに、参加者たちはあまり重視しておらず、実は惹かれた理由が自由に見た目のデザインをすることができる、ということが分かりました。

そのため、ほかのタイプの潜在顧客を対象としてアンケート調査を行うことにしました。この調査では、精密金属の技術を通じて無限に曲が流れるオルゴールを実現することを理解してくれる人々をターゲットにしようと考えていました。

エンジニアリングサンプルのデモで思いがけない注目を集める

2017年から2018年にかけて、私たちのオフィスは「新北創力坊」(英語名:InnoSquare。台湾の公的アクセラレーター施設である。)に進出しました。ある日、新北創力坊によりハードウェアイノベーション展示会が開催されたため、多くの創客(メイカー)が来場しました。当時、新たなターゲットオーディエンス(TA)を開拓するために、まだ開発中のスマートオルゴール「Muro Box」をデモすることにしました。

智慧音樂盒Muro Box活動照片
Muro Boxの発明者である馮振祥が、ブースを訪れてくれたメイカーに機構の設計原理を説明しています。ブースの横のポスターに、これまで開講したことのあるオルゴールDIYレッスンコースと編曲コースのイベント記録が載っています。

まさかエンジニアリングサンプルをデモしたら、時間の合間を縫って私たちと交流するために、ブースの近くをうろうろと二時間も歩き回しているメイカーがいたとは思わなかったです。その方は、一体どのような機構設計が、プログラムの制御でオルゴールに様々なジャンルの曲を演奏させるのかについて非常に興味を持っていました。この展示会を通じ、メイカーたちが私たちの潜在顧客かもしれないということが分かりました。なぜなら、メイカーたちは機械設計とプログラム制御装置の研究にかなり興味を持っているからです。

展示会の後、私たちがゼロから製品開発を学んできた物語をFacebookファンページで皆さんと共有し始めました。それ以来、投稿した記事が徐々にファンの注目を集めるようになりました。それに、私たちの物語から、スマートオルゴール「Muro Box」の開発が思ったより簡単ではないということが、皆さんも分かるようになりました。材質が音色に与える影響を検討すべきばかりでなく、機械スペースと製造プロセスも考慮しなければなりません。私たちはファンと共にスマートオルゴールの誕生を楽しみにしており、この台湾の精密工業、電子工学、情報工学が融合した知恵の結晶が国際的に注目される日も楽しみにしています。

投稿コメントから分かったこと

2017年、Facebookファンページで初めて大勢の方に関心を持たれた投稿は「オルゴールの謎解き」でした。その内容は、アメリカの教授であるBill Hammackさんが、よく見かける18弁のオルゴールのムーブメントの構造原理とオルゴール産業の歴史を解説している動画を翻訳したものです。この投稿記事が二つのオルゴール専門店を含む多くのオルゴール愛好者にシェアされました。皆さんが投稿を読み新しい知識を共有するのが好きだと思うので、オルゴールの謎についての記事を投稿し続け、皆さんと共有したいと思っています。

そして2018年、初めてスマートオルゴールの組み立て過程を撮影してみました。当時、私たちはタイムラプス録画で、この144個の部品で構成されるエンジニアリングサンプルがどれほど複雑であるかを記録しました。この動画をアップした後、Muro Boxがこれほど複雑な仕組みであることにびっくりした、というコメントがたくさん来ました。ついに2020年、台湾で初めて量産化に成功したスマートオルゴールMuro Boxが、さらに200個以上の部品で構成されるようになりました。

Facebook投稿が注目されて以来、興味深い質問がたくさん寄せられています。そのため、各投稿の写真が一つの質問にのみ答えるように設計し、一連のQ&A投稿を作成するようになりました。Q&Aを通じてさらに多くの製品関連情報を共有したいと思っています。

例えば、次の画像は、あるソフトウェアエンジニアからの質問に回答するために設計されたものです。ユーザーが自分でアプリを作成し音楽をアップロードできるように、スマホのアプリケーションプログラミングインターフェイス(API)を開放するかどうか尋ねました。この一連のQ&A投稿のおかげで、2018年に台湾の「ZECZEC」でクラウドファンディングを始める前に、多くのファンとスポンサーを惹きつけることができました。

有人問是否會開放手機的Application Programming Interface (API) ,讓使用者自己寫App上傳音樂
アプリケーションエンジニアにとって、スマートオルゴールが普通のオルゴールが奏でる音楽や曲目の制限を打ち破るばかりでなく、将来的には自分でプログラムを作成し楽器を演奏する満足や楽しみが得られるかもしれません。

デザインの核は、ムーブメントをオルゴールの主役にすること

お客様インタビューとオンラインアンケートを通し、皆さんが期待しているオルゴールのデザインが分かりました。その上、多くの方にとって手頃な価格と見た目のデザインが購買意欲を高めるポイントだということも判明しました。しかし、そのようなオルゴールはムーブメントが箱の中に隠されていることがほとんどです。

一方、私たちが予想する価格帯のオルゴールは、ムーブメントが見える仕様が多く、その動きを強調するために上蓋が開いていたり、透明なケースにしたりして設計される傾向が見られました。そのため、ムーブメントが見える仕様は多くの方が認識しているオルゴールとは大きく異なるにもかかわらず、ユーザーが聴きながらオルゴールの「心臓」の動きが見られるように、Muro Boxのムーブメントを目を引く主役にすることにしました。

皆さんがMuro Boxを一見すれば、その回り続けて演奏しているムーブメントに惹きつけられるといいと思います。それは私たちが最初から定めたデザイン原則なのです。

深色版智慧音樂盒Muro Box
こちらは、2020年にアメリカでクラウドファンディングを始める前に撮影したスマートオルゴールMuro Box-N20の最新デザインと色合いです。

初めてデザインスタイルを決める

2017年から、私たちはMuro Boxのデザインのために工業デザインスタジオと連携し始めました。当時、オルゴールの見た目に関して三つの提案を提示してくれました。どれにするかを決めたら、それを元に細部の修正を続けようとしました。

最後に、画像のProposal Cを選びました。このデザインの発想は電子ピアノから得ました。櫛歯がピアノの鍵盤のようにメロディを奏でようとしました。

このデザインを選んだ理由は、音の共鳴特性から見ると木材がプラスチックよりも明らかに優れているし、自然な木目と材質がオルゴールのイメージと相応しく、スマートオルゴールは思い出や温度が伝わるテクノロジー製品であることも伝えられるからです。その上、多くのオルゴール愛好者に尋ねたところ、木材の温もりと触り心地が好きで、もっとも人気があるのは木製オルゴールであることが分かりました。さらに、新製品の段階では量産数が多くなかったので、材質を木材にすれば最低発注数量の制限が少ないことも分かりました。もし、プラスチックか金型を開く必要のある材質にすれば、最低発注数量が結構高くなります。

設計工作室為智慧音樂盒Muro Box提供的三款造型提案
デザインスタジオがオルゴールの見た目に関して三つの提案を提示してくれました。
智慧音樂盒Muro Box原型造型靈感來自電子琴
オルゴール提案Cのデザイン発想は電子ピアノから得たのです。

デザインスタジオとの打ち合わせの中、ある印象深いエピソードがありました。提案Cを決めた後、全てのコントロールボタンを隠し、木箱に指でスワイプ操作ができるインターフェースを設置することで、ハイテクでおしゃれな感じを生み出すことを、デザイナーが提案してくれました。その後、高価なオルゴールを購入したことのある愛好者にこの提案について尋ねてみたら、結局は反対意見を持っていたようでした。彼女はよく間違ったボタンを押したり、スイッチが見つからなかったりしがちのため、このような見えないボタンのデザインが好きではないと教えてくれました。

まずはケース工法の決定:
成型合板

デザインの方向性を決めた後、伝統的な要素や文化のスタイルをもっと完璧に取り入れるために、共振筐体の木箱を「丸みを帯びた四角で、四角を帯びた丸」のイメージで設計し、滑らかな曲線の美しさを作ろうとしていました。この形を実現するには工法が二つあります。一つは、CNC技術で直接無垢材を掘り抜く方法です。しかし、CNC技術では木くずや廃棄物が多く発生し、資源の無駄になると考えた末、薄い板を一枚ずつ重ねることで丸みのある曲面を形成する成型合板の工法を採用することにしました。

智慧音樂盒Muro Box早期樣品機的木盒造型特寫
オルゴールMuro Box-N20の初期プロトタイプの木箱の大写しです。

ムーブメントが見える透明な上蓋の素材選び

「透明な上蓋の材質は、プラスチックかガラスにするか」という難しい課題に直面しました。

私たちは実際に台湾の苗栗県にある吹きガラス工場を訪れ、ガラスを上蓋の材質として使用する可能性について職人さんと話し合いました。しかし、ガラスというものは、オルゴールの亜鉛合金ベースプレートと接合するにしても、木製の共振筐体と繋ぎ合わせるにしても、工業設計においてもっとも困難な「異種材料接合」という課題を抱えています。ガラスは硬いけれども割れやすい性質を持つため、ホゾ組みの方法ではダメです。もし、接着剤で接合すると、ガラスは永久にくっついてしまい、保守作業が難しくなります。それに、使用状況と輸送時における衝撃や破損などを考慮すると、強化ガラスが必要で、しかもその厚さが5mm以上に達する必要があります。これにより、製品のサイズと重量が大幅に増加するのです。

組み立て方法、重量、耐久性、安全性、美観性などを熟慮した結果、上蓋の材質としてプレキシガラス(アクリル)を採用することに決めました。ガラスのように透明度が高く美しさを保ちながら、ユーザーもオルゴールの演奏時のムーブメントの動きやシリンダーの回転を楽しむことができるからです。

巻き上げキーに新たな機能を

もう一つデザインの方向性はデプスインタビューを通して決めたのです。世界中のオルゴールをコレクションしており、三十個以上持っている収集家であるFionaさんにインタビューを行いました。彼女はオルゴールの巻き上げキーに工夫があるかどうかを非常に気にしていると語ってくれました。巻き上げキーはまるで思い出のスイッチのようで、オルゴールを巻き上げると、音楽と共に思い出のシーンも浮かび上がってくるからです。

その意見に基づき、スマートオルゴールはゼンマイを動力源として演奏させる必要がないにもかかわらず、オルゴールにある巻き上げキーをそのまま残すことにしました。そして、プレイリストの「前/次の曲へ移動」のつまみという新たな機能を巻き上げキーに与えようとしていました。そうすれば、ユーザーは音楽を再生し続けるために何度も巻き上げ直す必要がなく、両手解放でゆったりと音楽との付き合いを楽しむことができるようになりました。

智慧音樂盒Muro Box旋鈕操作示範
スマートオルゴールの巻き上げキーの使い方について。

問題発見後、デザインを再調整

しかし残念ながら、実際に試作品で製品テストを行った直後に、当初設計されたオープン木箱のデザインが共鳴箱の構造を破壊し、オルゴールの流れる音が私たちが設定した基準に達しないことが判明しました。つまり、オルゴール愛好者がよく言う「余韻・響き」を奏でることができないということです。

今回の過ちを糧にし、音質の最適化を目指し、木箱を再設計しました。現在のこの代表的なデザインとなっています。品質を確保するために、方法を考えているうちに数え切れないほどのテストも行いました。その上、櫛歯の全音域がもっとも完璧な音であることを確保するために、3Dモデリングを使用し、新しいデザインの共振周波数のコンピューターシミュレーションを行いました。私たちが設定した対照群である日本のサンキョー(Sankyo)製の同レベルのムーブメントと比べ、Muro Boxの響きや共鳴効果のテスト結果が同等かそれ以上であると確信しています。

その後、私たちは三つのデザインを作成し、Facebookファンページでの投稿を通じ、皆さんにどの木箱のデザインが気に入ったかを投票していただきました。従来のオルゴールデザインとは大きく異なる創意工夫が好まれていたようで、当時はAとCがもっとも人気でした。が、結局は従来のオルゴールに近いイメージのBを選びました。なぜなら、あるファンが投稿のコメントで自分の楽器に対する知識を共有し、デザインBの共鳴箱から出る音がより鮮明であることを教えてくれたからです。それに、ほかのファンが参考にできるように関連情報も提供してくれました。そのファンの専門的なアドバイスが現れたら、大逆転で投票の結果がデザインBになりました。クリエイティブよりも音色の鮮明さがもっとも重要なポイントですからね。

智慧音樂盒Muro Box在量產前的外型設計
私たちはこの三つのデザインを作成し、投稿コメントを通じて皆さんに投票していただきました。

最終的に量産されたバージョンは、デザインBを元に細部の修正を続けてきたものです。スマートオルゴールMuro Boxが初めて量産に成功するまでに、どのような過程を経てきたのかについて興味のある方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。世界初アプリ連動でプレイリストの作成や作曲編曲ができる台湾製のスマートオルゴールMuro Boxを開発するには、どのようにユーザーのニーズや習慣を調査し、Muro Box専用のアプリを作り出したのかを、次の記事でご紹介いたします。